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リシのサーキュラーファーム

2024年9月14日

読了時間:4分

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リシはカルカッタ出身で、イタリアやギリシャで料理と農業、食のサステナビリティを学び、近年はインドで料理人として活動をしながら、飲食店のプロデュースやコンサルを行っていた。しかしコロナ期間中は全て足止めとなったことをきっかけに、ニルギリへ通いながら構想を練って行ったそうだ。2年前にこのギャラクシーバレーの土地を購入し、建物を自らデザイン・設計し、1年前に引っ越してきた。今年からキノコ栽培を開始し、現在ハウスの中には100個ほど菌床入りのバケツが積み重なっていて、今か今かと収穫を待ち望んでいる。


彼が育てているキノコはオイスターマッシュルーム。日本ではヒラタケやエリンギと呼ばれているが、国外にはいろいろ種類があって、キングオイスター(エリンギ)、イエローオイスター、ピンクオイスター、ブラックオイスターの4種類をここでは栽培している。


住居とグリーンハウスは併設していて、屋内の通路で結ばれている。

一つはキノコ栽培用で、ハウスの中は温度、湿度、二酸化炭素濃度を管理できるよう、水蒸気が噴出する放水パイプと換気ファンがついている。入り口の横の壁には小さな箱がついていて、そこで成長時期に応じて環境設定をすることができる。しかも電力は全て太陽光による自家発電で賄うことができるから驚いた。ギャラクシーバレーの標高1500m、赤道寄りの山岳地帯のため、一年を通して日中の気温は20度前後と安定している。キノコの栽培はだいたい20度〜25度前後のため、冬場もヒーターを必要とせず、年中キノコの栽培・収穫ができる。ちなみに栽培用のハウスは二部屋に分かれているため、タイミングをずらしながら年中収穫ができる。


ハウスの中にはバケツが6、7個積み重なった状態で並んでいて、側面にはキノコの発生口用に等間隔で穴が空いている。バケツの中には植菌した木材チップが詰まっていて、見た目はただの湿った木屑で生き物は肉眼では見えないが、菌は2〜3ヶ月でスクスクと成長し、キノコの姿になる。ちなみに一つの穴から3回ほど生えては採ってを繰り返すことができる。


もう一つのハウスには自動管理のファンがついているシンプルな温室だが、床には黒い石が張られ、太陽の熱を蓄熱してくれる。収穫したキノコは主に乾燥して販売するそうだ。キノコは乾燥により水分が抜けると、グルタミン酸などのうま味成分が濃縮され、栄養価を維持したまま、新鮮なものよりも風味が増す。そこからさらに粉末にしたり、ハーブやスパイスと合わせてオイルに漬けるなど、様々な加工品にできる。キノコ以外にも近隣の有機農家から食材を仕入れて、加工品の開発を行うそうだ。


日本同様、インドでも乾燥キノコは高級食材だ。それがオーガニックであれば尚のこと。高く売れるものを低コストでつくる。低コストとは質の悪い安価なものでという意味ではなく、自立型太陽光エネルギーと廃材の木材チップで環境負担を軽減しつつ、コストを抑えるという意味だ。廃棄物を再利用した、サーキュラーエコノミーという最先端のビジネスモデルがインドの山奥に発見したのだった。これは、シェフならではの発想とレストランニーズを理解したリシが考案した新しい形のアグリビジネスだ。



ちょうどコロナで家にいるしかない時期に、自分なりの持続可能な食との携わり方を考え、今の形となった。リシはキノコ以外にも、発酵の分野に興味があり、コンブチャやジンジャエール、フルーツビネガー、麹漬けなどラボの棚にはいくつもの瓶が並んでいて、毎朝瓶の中で菌が生きていることを目と鼻で確認する様子は、登校時にいつも会う友達に挨拶をするかのようだった。


ここから半径200mには誰も民家はない。しかし半径10mには幾種もの膨大な数の菌たちがいて、一緒に暮らしている。それは発酵食品だけでなく、土のご飯になる発酵肥料も各種ある。玄関先には魚の捨てる部分を黒糖とEM菌で発酵させた液肥。外にはコンポストのタンクと雑草とバイソンの糞などを入れた堆肥と液肥のための蛇口付きのタンク。建物の周りには茶畑から野菜用に転換した畑があり、行った時はちょうど開墾と種まきが始まっていた。茶畑だった農地は単一栽培で農薬も使われていたため、今は土は痩せこけてしまっていたが、液肥や堆肥をしっかりと土に与え、菌パワーで土壌の健康回復促進を行っている。


リシはこれから、廃棄物を使ったキノコを主力商品に、発酵食品や加工品を開発し、畑ではハーブや野菜を育て、周りの有機農家やレストランと協力して食全体の環境をデザインしていく。彼のスタイルは一農家でありながらも、地域の農と食の環境に大きく貢献していくことができる。



人と宇宙 人と地球 人と山 人と地域 人と植物 人と動物 人と土。目に見えないだけで、実は全部菌で繋がっているのかもしれない。一つ一つ切り離して考えるのでなく、あらゆる物事が菌を介してどこかで繋がっているのかもしれないと思ったら、菌を意識して菌と暮らす、菌的暮らしがサステナブルな社会のキーマンな気がした。それに、このようなサーキュラーファームが、これからの社会で大役を果たしてくれるかもしれない。



2024年9月14日

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