
とろけるように甘い太陽の果実にうずくまり 夕焼け色の液体が脳を溶かす
血液に絡みつき 骨の髄まで染み込んでいく 気づけば肉体を忘れ あの世行き
至極官能な甘味に誘われ行く先は どの世だろう
地獄へ落ちたのか 天国へ昇ったのか 社会性を放棄し 本能の赴くままに生きた者たちの証がそこにある
朝目を覚まし キッチンで顔を洗い メガネをかけると 皿に置かれたマンゴーの種子の上で 蟻が群がり死んでいる
巣へと食糧を運ぶことを忘れ 己の欲求を満たすために生きた蟻たちを眺め パーイの朝が始まった
「ンケッコー、チュリルラー」
聞き慣れない鳥やヤモリたちの美声が朝 日と共に出迎えてくれた。
木漏れ日から通り抜ける、キラリとした真夏の空気と、一面真緑の世界を身体いっぱいに吸い込こんで、背伸びをした。ドラゴンフルーツとマンゴーとパイナップルのスムージーをかき混ぜながら、カフェの中心にある囲炉裏に吊るされた大きくて煤けたヤカンに入った、フットベリーのお茶を啜った。
やっぱり朝は無性に味噌汁が飲みたくなる。日本人に生まれたがために、身体に染み付いてしまった衝動なのか。昆布、鰹節、乾燥椎茸、味噌はある。具になりそうなものは、目の前に一つだけある。甘いかと思って買ったら料理用だった緑色のバナナ。やったことないけど、多分いける。出汁の中でバナナをぐつぐつ煮込み、味噌を溶かした。
煮込まれたバナナは、さつまいものようにホクホクして程よく甘みがあっておいしい。予想通り味噌とも相性ばっちりだった。味噌汁にはどんな食材を入れもいいという定説は、国境を越え、タイのパーイで一個証明されたようで、嬉しくなった。
味噌とバナナ。日本人とタイ人がお椀の中で仲良く踊っている。大概のことは、やってみなきゃわからない。自分の想像力を信じすぎないで、失敗を恐れずに冒険をすることを忘れてはいけないと、一杯の味噌汁が教えてくれたような気がした。と同時に、マンゴーの種にしがみついてこの世を去った蟻たちが、まさしく勇敢な冒険者であったことを物語っていた。
それに、蟻の中ではなかなかいい死の方だと思う。人か何かに踏まれて急死するより、はるかに安らかで、平和な死に様ではないか。
